こんにちは。中華楼の四代目、素久です。前の原稿の続きです。
「口福から至福へ」を表現するために、みんなで中華楼にある喜びについて考えてみました。なぜ喜びについて考えるのかというと、お客様に伝えるべきことが何かを考えたとき、それは中華楼のいいところだろうということになり、中華楼のいいところというのをそのまま伝えても何か宣伝臭があるので、僕たちのリアルな感情でいいところを伝えるためにはどうしたらいいのかを考えました。その結果、僕たちひとり一人が感じる喜びは何かを表現していこうと思い至りました。中華楼の美点とか、いいところを言おうとすると、どうしてもコマーシャル的な雰囲気が抜けませんけど「中華楼で感じる喜びは何か?」と問われると、宣伝のコピーというよりは、どこか素の感覚や感情が出てくるような気がするのです。そこで僕たちの喜びは何かを考えました。
料理長の岩井さんが言いました。
「いい宴会がおこなわれていると嬉しいよね。本当に盛り上がっている宴会って厨房にいてもその熱気のようなモノが伝わってくるものだから。そして下がってくるお皿を見れば料理を喜んでもらっているかどうかがはっきりわかる。そういう宴会がおこなわれたとき嬉しいね」
副調理の富田さんは「一生懸命考えた季節の料理が評判だと嬉しいです」と答えました。
麺点師の茂木さんが言いました。
「チーフが言ったように、ホールから『おいしい』とか聞こえてくるとやはりうれしい。そういう声がもっと上がるようにしていきたい。お客様に喜んでもらえることが一番うれしいことだから、いろんな工夫を重ねてもっと喜んで帰ってもらいたい」
店長の久保田さんはこう言いました。
「このお店は駅から少し遠いので、それでもわざわざ来てくれるお客様は本当においしいと思ってくださる皆さん。だからお客様の層としてはリピーターが多い。そういう立地的なハンデを背負いながらもわざわざ来てくださるお客様を大切にしたい。だからテーブルに懐かしい顔を見つけるととても嬉しい。ああ、また来てくださったんだなと。だからおなじみさんの好みは憶えてしまう。そうやって次に来たときにそのかたの好みを厨房に伝えて、できた料理を喜んでいただけるとそこにやりがいを感じる」
ホール主任の斉籐さんはこんなことを言いました。
「最年少でまだまだ経験が足りないのが心配です。でも、心がけているのは5つのS。Speed、Smart、Smile、Sensitive、そしてSuccess。とにかく速い動作、そして理知的であること、お客様へはスマイル、あらゆる動作とお客様へのサービスは繊細にすること。それらを続けることで最後にはうまくいったという感覚が残り、実際に繁盛すること。だからお客さんがたくさん入っていると嬉しいですね」
こうして質問することでスタッフの思いがどんなものかがわかりました。表情を見ればなんとなくはわかることかもしれないけど、言葉にしてもらうことでそれが確認できてよかったと思います。女房のアキも店内のお手伝いをしてくれているのでひとこと言いました。
「口福から至福へという言葉は、お客様のためだけではなく、私たちお店を運営する側のための言葉でもありますね。スタッフとひとつの輪になって至福なサービスを提供することで、私たち自身も幸せになり、ここに集う人みんなが至福にいたるといいですね」
アキの言葉に「もっとも」と思ったけど、それは僕が言いたかったな。